本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

青き剣舞/花家圭太郎

佐竹藩の冷飯たちに降りかかった運命の転変を描く時代小説。

玄二郎、参徹、継之進は、学問所でも道場でも三羽烏と呼ばれる親友であり、参徹は剣術で、継之進は学問で身を立てる夢に燃えている。のほほんとしていて山歩きを好む玄二郎は、未だ己の道を描こうとはしていなかったが、藩の重職・茂木玄蕃頭恭充から玄二郎の器量を見込んで、娘・お芙卯へ婿入りの話が降って湧く。人の良い次男坊が良縁に恵まれるあたりは、山本周五郎の短編小説を思わせるが、この先に運命の転変が待っていた。

新婚の二人は仲むつまじく暮らしていたが、同じ道場に通いながら自分を推挙しなかった師匠を怨み、嫉妬をたぎらせていた参徹は、行きがかりで玄二郎の舅を切ってしまい逐電、玄二郎に敵討ちの責務が生ずるのである。

敵討ちなど忘れて玄二郎と仲良く暮らせと入れ知恵した母の気持ちを汲み、江戸へ同道したお芙卯である。玄二郎の方はそんなこととはつゆ知らず、参徹の行方を捜す。町人の知り合いも出来、徐々に江戸に馴染んでいくのだった。

折しも赤穂の討ち入りが取りざたされていた頃で、恰好の憂さ晴らしとこれに入れ込む町人の様相などをからめた筋立ては、「用心棒日月抄/藤沢周平」の影響が感じられる。 堀部安兵衛町道場が出てくるあたりもそっくりだ。

ラストシーンは哀切であるが、すべての収まりが付いて、悲しいハッピーエンドでもある。友情や運命の転変や青春の苦悩がしみじみと描かれた、時代「青春のしっぽ」小説という感じだろうか。