本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

黙示録/池上永一

薩摩と清国の属領という立場から、芸能を外交手段とすることで巧みに生き抜いてきた江戸中期の琉球を舞台に、舞踊に生涯を賭ける少年の成長を描いた芸能時代小説。

主人公の蘇了泉は沖縄の身分制度では最底辺の生まれである。業病に冒された母親と共に集落を追われ、曲芸の一座の下働きなどをしていたところ、衆目を集める天性のあることを見いだされ、琉球の外交使節の一員である楽童子になろうとするが、踊りには長けていてもあまりに粗野で野卑で根性が悪く、何度も選考を落とされる。

了泉のライバルとなるのが雲胡(くもこ)という少年で、こちらはみっちりと正統の舞踊を仕込まれたエリートであるが、了泉の天性にコンプレックスを持ち、対抗心から切磋琢磨していくことになるのだった。何だかドラゴンボールを想起させるような成長譚である。

池上作品の通例通りユーモラスな描写も盛り込まれるが、了泉の辿る道は結構過酷である。しかしそれが了泉の成長の糧となり、ついには芸能のルーツである宗教的な境地に至ることに。

ニンブチャーという最底辺の身分から世の中を呪詛していた了泉は己の傲慢さから道を誤り、そこから新たに再生していくのだが、どうもねぇ、なんだかいつもの池上作品のようなカタルシスが薄い。あまり悟らず、ハチャメチャに暴れた末に幸せになって欲しかったなぁと思う。このタイトルでは壮大な琉球ファンタジーかと思ってしまうし、何かちぐはぐの感。