本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

第二音楽室/佐藤多佳子

四篇の作品(短編2、中編1、長編1)で構成される、音楽と教室をテーマにした二分冊の前半(短編2と中編)で、主人公や年代の設定は重ならないが、クラス内のヒエラルキーの高くない子供が、周りの空気を読みつつ音楽に没頭する姿が活写されている。通底するテーマは同じであり、連作的な短篇集とも言えそうだ。
 
表題作は、鼓笛隊でオーディション外のピアニカに回された四人の五年生(すぐに最上級生になる)が、練習場所として第二音楽室(校舎の屋上に設置された唯一の教室)に屯し、秘密基地のような居心地の良い場所として束の間の自由を満喫するというような筋立て。彼らには誇りを持ってピアニカを吹いてほしい。

「FOUR」は、中学の卒業式で演奏されるリコーダー四重奏のメンバーを描いている。プラ製の縦笛ではない、本物のリコーダーであり、女子中学生のほのかな恋心がキュンキュンさせる(笑)。荘重なリコーダーの響きが聞こえてきそうだ。「インスブルックよ、さようなら」を聞いてみたい。

そして最終編の「裸樹」は重苦しくも少女の成長を描いて読ませる。主人公は、中学生の時にちょっとした一言で仲間はずれにされ、この世から消えてしまいたいとまで思っていたが、暴力はないのでいじめとは認識されておらず、親も知らない。しかし、公園で誰かが演奏する「裸樹」というフォークソングに触発され、不登校になることで生きようとし始める。

「裸樹」を歌うのは「らじゅ」という正体不明の歌手で、歌に励まされ、自宅での受験勉強の末に中くらいの私立女子高に入学すると、軽音部に。お調子者のキャラを作り、バンドを組んだ強い友人、名美の顔色を伺っているのは痛々しいが、それで平和に生きていけるなら彼女にとって御の字なのだ。いろいろあった末の演奏の場面が本編の白眉。こういう、音楽の喜びにあふれていて読者まで演奏に浸らせてしまうのが音楽小説の魅力であろう。音楽に救われた女子高生が痛々しくも清々しい佳作である。