本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

魔道師の月/乾石智子 

ダークファンタジーの傑作「夜の写本師」http://d.hatena.ne.jp/suijun-hibisukusu/20121202/p2では飄々とした老魔道師として登場したキアルスと、キアルスの友人となる頼りない魔道師レイサンダーの、共に青二才の魔道師二人の戦いと成長を描いている。

今回の敵は「暗樹」である。木片の形をとり、自分を見ることの出来る者には薄目を開けて恫喝するという不気味な奴で、憎悪や欲望を持つ者に取り憑き、世を混乱に導くことを喜びとしている邪悪な存在だ。

コンスル帝国皇帝の甥で、後継者たるガウザス(快活な好男子)が可愛がる魔道師レイサンダーは、皇帝に献上された暗樹の恫喝に恐れおののき、遁走してしまう。

一方、「夜の写本師」において大事な友人である少女を失ったキアルスは失意の旅に出ている。才気煥発ながら癇癪持ちで自分の感情を抑えられないキアルスは自暴自棄となって大事な書物を焼いてしまったりしていたが、立ち直るきっかけを得る。そしてまたもトラブルに巻き込まれてタペストリーの中に入り込むと、そこにもまた暗樹のもたらす混乱との戦いが待っているのだった。星読みテイバドールとなったキアルスの苦難の旅が読ませる。

頼りないレイサンダーは己のうちに闇を持っておらず、魔道師としては中途半端なことを兄弟や先輩魔道師から指摘されていて、そこから成長していくのも読みどころだろう。機智のキアルス、善良なレイサンダーの名コンビの戦いやいかに。

若い二人が主人公のせいか雰囲気は前作よりも明るい。その分重厚さに欠けるような気もするが、ビジュアルな文体もあって暗樹との戦いは迫力満点。十分に楽しめた。