本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

日暮らし/宮部みゆき

怠け者だが温情があって有能でもある飄々とした定町廻り同心井筒平四郎と、義理の甥っ子で、超絶的な美貌と頭脳を持ちながらもどこか滑稽な風情もある弓之助のコンビが、大店の暗い過去にまつわる事件を解いてみせた「ぼんくら」に続く長編。

各短編が大きな長編の伏線になっているという構造は相変わらずで、子供の失意や、ストーカーなどをテーマにしたそれぞれの短編も読ませる。社会派ミステリー作家らしい庶民の描き方も、時に微笑ましく時にほろ苦く、ほろりとさせる上手さだ。

平四郎の奥方は、美貌の甥っ子・弓之助を町方に置いておいては、将来、女たらしとなって身を誤ると心配し、養子に迎えようと考えているのだが、煮売り屋のお徳の見立てが楽しい。「弓之助がたらすのは女ばかりではなく、年寄りも大人の男もやっつけてしまう。ジジイやババアを転がす力のある者は、ただの穀潰しの女たらしにはなり下がらないものだ」と考えているのだが、何だかジャニーズ事務所のタレントのようだ(笑)。

人間関係の描き方の上手さでは、平四郎と弓之助コンビの情愛の深さも楽しく、「お前の頭を撫でてもいいかい」と言われて頭を差し出すあたり、非常に微笑ましい。このあたりは作者の独擅場だろう。

今回もある大店の事情が影を落としているが、名家にまつわる暗い過去という点で、一時代前のハードボイルドを思わせるユーモア社会派時代ミステリー。