本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

翔べ麒麟/辻原登

遣唐使の護衛士として入唐した青年と、朝廷の高官である阿倍仲麻呂(朝衡)を軸に、政争や戦乱に揺れる玄宗楊貴妃の時代を描いた中国歴史物。

朝衡は朝廷で重きを為しているが、楊貴妃のいとこである楊忠国が宰相として政権を牛耳っており、この二人は政敵の関係にある。清廉なエリート官僚グループのトップである朝衡、賄賂にまみれた楊忠国、それに辺境を抑える蕃将安禄山があり、微妙な三つ巴の政争が繰り広げられていて、目の上のたんこぶである朝衡グループを除こうと楊忠国一派はさまざまな罠を仕掛けてくる。このあたり結構スリリングだ。

一方、純真で単純な熱血漢の護衛士、藤原真幸(ふじわらのまさき)は朝衡に気に入られて、近衛軍である衛尉寺騎馬隊への入隊を許され、めきめきと頭角を現していく。唐をパリ、日本を田舎のガスコーニュと捉えればこれはまさに三銃士へのオマージュであろう。かっこいい制服に憧れるあたりも似ている。

純真ながら色事にかけてはなかなか凄腕で、何人かの女性と恋に落ちるが女刺客との因縁が読ませる。三銃士にも魅力的な悪女が登場したしものだし。

作者は純文学畑の人だが、何故こんなものを書いてしまったのか、歴史小説政治小説、青春小説、活劇小説の面白さを併せ持った作品だった


翔べ麒麟〈上〉文春文庫
翔べ麒麟〈下〉文春文庫