本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

少年少女飛行倶楽部/加納朋子 

クラブ活動必修の中学校で、一年生の佐田海月(さだみづき=しっかり者で頼りになり、天然ボケの母親や友人に対してツッコミ体質)が、副部長に一目惚れした幼なじみの大森樹絵里(依存的で甘ったれなブリッ子)に頼まれて入部したのは変人ばかりの飛行クラブだった。そして、空を飛ぶために、海月は苦労させられながらがんばる・・・、という学園小説である。

登場人物のキャラがすさまじく、中でも出色は部長の斉藤神(さいとうじん)である。協調性がなくて傲岸で無神経で唯我独尊で空気が読めなくて、当人は至ってまじめだが、無神経すぎる言動が爆笑を呼ぶ。底意地が悪くて悪口と陰口の達人で情報通の、イライザとあだ名される戸倉良子も個性的だ。この子も無神経なのは天然なのだが、海月と仲良くしたくて、ひとの悪口は仲良くなるためのプレゼントなのだという描写が鋭い。

飛行クラブは、ひとと同調できない斉藤部長が一人で活動してきたもので、その結成に関しても切ないものがある。部長には障害者の姉がいて、その世話をするために生まれさせられてきたのだが、普段、地に足を付けなければならない生活を自覚しているせいか、そのために空を飛びたいと請い願うのである。公園で見かけた、子供に大きな高い高いをする男性に、自分たちにもやってくれと頼むあたりが何とも可笑しくて切ない。

その他、高所平気症(高いところを平気で歩き、落ちて大けがをしたりする)の美少女仲居朋(朋と書いてるなるなと読む。月が二つあるから(笑))とか、かなり変な登場人物の中で苦労する海月である。

樹絵里とは、母親同士が公園デビューをした当時からの腐れ縁であり、半ばうざがり半ば保護するような気持ちで愛しているのだが、いじめられそうな樹絵里をかばうことに疲れた海月は、人間関係をリセットしようと中学受験を志したりもする(不合格で公立校へ(笑))。

部長の切ない思いに共感する海月とか、友人との葛藤や友愛とか、読ませどころの多い、楽しくて感傷的な青春小説ではある。しかし設定に難があるのは、登場人物たちが大人すぎることだ。「女の子同士の微妙なパワーバランスだの、繊細で時に残酷な人間関係だのを、一度すっかりリセットしてしまいたかった。」なんて台詞を、普通中学一年生が吐くだろうか(笑)。高校生くらいの方が自然な感じだと思うのだが・・・。

本書は図書館のヤングアダルト向けの棚にあったが、別冊文藝春秋という掲載誌を考えても大人向けに書かれたものだろう。まぁでも、抒情的でハートウォーミングなミステリーを書いてきた著者らしく、心やさしい学園小説である。