本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

獣の奏者/上橋菜穂子

国際的にも評価されている児童文学ファンタジーだが、どこが児童向けなのかと思わせるくらいの大作で、架空の獣を除けば堂々の大河架空歴史ロマンである。

真王(ヨジェ)が神聖な権威として存在し、大公(アルハン)が闘蛇による武力で辺境の防衛を引き受けているヨゴ国では、パワーバランスの変化と共に真王と大公の間にきな臭さが漂っている。

主人公エリンの母は、大公国の闘蛇の飼育係として有能な獣ノ医術師であったが、他民族、霧の民の出自ゆえに常に白眼視されているような存在であった。そして、闘蛇の大量死が起きた時、母娘に不幸が訪れ、エリンの長い放浪の人生が始まるのだった。

獣ノ医術師を目指すエリンは養成の学舎で学ぶが、そこは王家の猛獣である王獣(空を飛ぶ猛獣)を保護する施設でもあり、傷ついた幼獣を世話することになったエリンはいつしか禁じられた領域へ踏み込むことになり・・・。

政治的な駆け引きや神話の構造、なぜ禁忌が生まれたのかと言った設定の構築が緻密で、圧倒的な迫力を感じさせる。エリンのような少女は、一般の児童文学では清く正しく美しく描かれそうだが、死に縁取られたような過酷な人生を歩んでおり、常に絶望の中を生きているような感じでもあり更に狷介で独善的な性格も垣間見られてそのあたりが新鮮。後半、いかなることになるのか楽しみだ。




本書は二巻で完結していたが、後に更に二巻が書かれ、全四部作となった。