本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

古道具 中野商店/川上弘美

古道具屋でアルバイトをするヒトミが、店主の中野さんや、その姉のマサヨさんや、アルバイトのタケオや、ややけったいな客やらとの日常を淡々(あわあわ)と語る連作集。名作「センセイの鞄」と同じように、まったりとして気持ちが良い。

中野さんもマサヨさんも五十を過ぎているようだが、共に稚気あふれる姉弟である。とてもモテそうには思えないのだが、二人ともそれなりに恋愛を謳歌している。

中野さんは「ラブホテルに入るタイミングが上手すぎて憎らしい」と彼女に言わせているような男だが、何故この男がこんなにもてるのか?(笑)。小汚い古道具屋の店主であり、飄々と軽薄な男で、流行り物とは無縁のようだが、それなりに商売の勘があって最後にはネットオークションで成功している。

マサヨさんは家作で食べられる人形作家で、たまに個展を開き、後は中野商店に入り浸っている。年齢相応に小母さんぽいのだが、ユーモラスで優しくて素敵なキャラだ。「男に乗っかられていると、文鎮に押さえられたている紙のような気分になる。」「老眼になると、男と見つめ合うのも少し離れなければならない。」「年を取ってどんどんひとに厳しく、自分に優しくなっているが、相手をなじる時に、次に会うまで生きているのだろうかということを考えてしまう。」等、かなり含蓄のある台詞を口にする人で、これは是非もたいまさこに演じて欲しいなぁと思う。

アルバイトのタケオは、とらえどころのない、影の薄い男である。いじめにより小指の先を失ってやや人間不信になっており、ヒトミと付き合っているのかいないのか、淡泊な関係を持った後、ヒトミの煩悶の種となる(笑)。存在感の薄さが却ってキャラ立ちさせている不思議な男だ。

そして、自家製のエロ写真を持ち込む元教師だの、呪いの器を預かってくれと懇願する若い男だの、不思議な客たちが怪しくて楽しい。

全体に淫靡な気配も濃厚なのだが、嫌悪感を催させるものではなく、少し微笑ましくて切ない。しみじみと味わいのある小説である。