本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

宿神(全四巻)/夢枕獏

西行と魔多羅神を絡めて描いた伝奇時代小説。


北面の武士、佐藤義清は、歌にも毛毬にも弓にも秀でている雅な男である。仲の良い友人の平清盛のような上昇志向はなく、おだやかに生きているが、待賢門院珠子というやんごとない女性に恋をしてしまったことから、鬱屈し、転変の人生が始まるのであった。


義清が毛毬で神秘の域に入ったとき何かの気配を感じるが、待賢門院珠子の奏でる箏にも同じようなものがあり、宿の神、魔多羅神と言った神の存在が提示される。宿の神への信仰を持つ傀儡の兄妹も登場するから伝奇風味がいや増すというもので、伝奇好きとしてはたまらない(笑)。


義清の友人として登場する清盛は合理主義者の闊達な男で、義清が見る「あれ」の存在は受け入れつつも自分としては感じないからそこに囚われることもない。上昇志向を公言してはばかることなく、義清とのなかなかいいコンビぶりを見せているが、夢枕作品ではこの手のコンビが多いようだ。


後半でどのような展開になっていくのか楽しみと思っていたが、うーん、前半の期待は大きく裏切られてしまった。出家することで人生を降りた西行は、友人清盛との交流を続けながら源平の盛衰を見届けることになるが、やたらと史実を書き連ね、「本物語では」だの「○○について語っておきたい」だの、のべつ作者が賢しげに顔を出す構成は司馬遼太郎の悪しき模倣と言えなくもない(真似(笑))。獏ちゃんも大家(たいか)になりたくなったかねぇ。


終盤、いかにも夢枕作品らしい、不気味で耽美的なシーンもあるが、せっかく傀儡の信仰する宿の神という題材を持ち出しながら源平盛衰記に終わってしまったのが残念。 

宿神 第一巻 (朝日文庫)

宿神 第一巻 (朝日文庫)