本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

リンさんの小さな子/フィリップ・クローデル 

本好きの交流SNS本カフェhttp://heartgraffiti.sns.fc2.com/にて紹介されていた本。

リンさんは、どことは明示されていないがベトナムらしき国から小さな赤ん坊を連れてフランスに上陸した難民である。息子夫婦は戦争で殺され、自分も絶望しきっているが、赤ん坊のためにのみ生きようとしている。

収容所の周囲の難民たちとも打ち解けず、孤立したまま生きているリンさんは、ある日散歩に出た先で、フランス人の中年男から話しかけられる。バルクさんというフランス人は妻に死なれたばかりで、こちらも孤独の中で生きている男であり、一方的にリンさんに話しかけるだけなのだが、いつしかこの二人の間に友情が通い始める。

「こんにちは」という意味のタオ・ライをリンさんの名前だと思い込んだバルクさんは「タオ・ライさん」と何度も呼び、こんにちはを何度も言うのがこの国の礼儀だと思ったリンさんは「ボン・ジュール」を連発する。リンさんは自分の吸わない煙草の支給を申し出てバルクさんへのプレゼントとしているが、受け取ったときのバルクさんの喜びようは激しく、この場面は作中での白眉であろう。

何度も呼び交わされる「タオ・ライ」と「ボン・ジュール」が本作の重要なモチーフ。言葉の通じない友情を描いて何とも切なく美しい小説である。