本・花・鳥(ほん・か・どり)

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高野聖・眉かくしの霊/泉鏡花

どういうわけか縁がなく、今まで泉鏡花作品を読んだことはなかった。或いは耽美的と言われる作風が好みではなかったのかもと思うが、夢枕獏も大ファンだそうだし、一度は読んでみなければと思って手に取った次第。

高野聖は一番有名な作品だろうか。旅で行き合わせた老僧の若い頃の陰惨な体験を聞いている、という内容は何となく知っていたので、淫靡でおどろおどろしくて恐怖感に満ちた作品をイメージしていた。

しかるに、確かにおぞましい描写もあるが、むしろどこか荒唐無稽のからっとした感じがあり、どうも聊齋志異的な中国の怪異譚のようだなと思いながら読んでいたら、果たして原典は中国らしい。「白痴」に「バカ」とルビを振るセンスが凄いな(笑)。

むしろ、旧弊な家制度や村社会をモチーフに姦通事件にまつわる惨劇を描いた「眉かくしの霊」の方が、日本的な湿度と恐怖感に満ちており、身の毛のよだつことだった。