本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ぼけますから、よろしくお願いします。/信友直子

認知症の義母のことをネタにした「全員悪人」の村井理子女史が推しているので読んでみた。やはり母親の認知症を巡るノンフィクションである。
全員悪人/村井理子 - 本・花・鳥(ほん・か・どり)



著者はドキュメンタリーの映像作家で、両親が元気なうちから自前のビデオで両親の姿を撮っていたが、母親が認知症を発症。快活で有能で人好きのする母親が変容していくことに戸惑いつつ、そこは映像作家であり、やはり両親の姿を撮り続けるうちにそれが仕事場に伝わり、情報番組で採り上げられることに。そして一コーナーからノンフィクション番組となり、映画として公開されて話題になったようだ。


著者がたびたび引用する「人生はクローズアップで見ると悲劇だがロングショットでは喜劇だ/チャップリン」どおり、母の認知症に手を焼く自分たちは大変だが、ドキュメンタリー作家として見ると恰好な素材でもある訳だ。


変容していく母親に手を焼きながらも、暖かく介護する父親(90代!)がなんともかっこいい。母親が有能な専業主婦だったせいで家事などしてこなかった父親が、様々な家事に取り組んでいるのである。母親を慈しむ姿に夫婦の絆が描かれてしみじみさせる。


他人の助けを借りることを嫌う夫婦に介護保険を導入することはなかなか大変だ。90代の父親が続ける介護にも限界があり、それも著者の悩みの種だが、番組内で「介護はプロとシェアしなさい」という助言を得て、取材を兼ねて地域包括支援センターへ。そしてやっと介護保険が介入することに。こんなことならさっさと相談すれば良かっと述懐する著者だが、さっさと気付けよと親を看取った者は思ったりする(笑)。


親しみのある話し言葉で書かれたノンフィクションであり、いい話だなとサクッと読めてしまうが、それだけでは済まない大変さもあるのだろうな。因みに本書のタイトルは母親による新年の挨拶だそうだ。


非介護職だが介護業界の片隅に棲息しているので介護に関する本は関心のあるところだ。