本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

四国辺土 幻の草遍路と路地巡礼/上原善広

路地(同和地区のことを中上健次に倣ってそう呼んでいる)出身の著者が、四国遍路を歩きながら周辺の路地を訪ね、また、ハンセン病者や乞食など、遍路をしながら生きながらえた人々(職業遍路とか草遍路などと呼ばれる)を考察したルポ。この世の枠組みからはずれたものに興味を抱いてしまう周縁好き、稗史好きの自分としてはなんとも魅惑的な内容である。


現代の職業遍路として挙げられているのは主に二人で、一人目の幸月を名乗る男のエピソードが興味深い。労務者の街、西成でひとを刺した後に遍路道に逃亡し、流浪しながら適当に金を稼ぎ、自由律俳句を作ったり、それをコピーして売りつけたりなどしているうちにマスコミの目に止まり、NHKの取材まで受けてしまったからあっという間に警察に目を付けられて逮捕され、刑を喰らった顛末が詳細に語られている。放浪中の支援者が出所後まで面倒を見ていたようで、お接待文化のある土地柄の懐の深さを感じる。


もう一人の職業遍路は著者が門付け・喜捨の弟子入りをしたヒロユキ師で、生まれ育ちはそこそこエリートながら学校時代に道を外れ、仕事も上手く行かず、ホームレスとして暮らした後に四国へ。妙な愛嬌のある人で、取材がてらの弟子入りを請う著者を迷惑がっているが、何となく好人物っぷりが伝わってくる。


遍路道は四国の主要街道でもあり、警備のためか路地も多く置かれたようだ。ただ、現住の人に配慮してかあまり深くは触れていない。


旅の本が好きだし、自分自身、世の中のまともとされる枠組みからはずれた人間で歴史上の放浪民に興味があったし、こういう世界には共感を抱いてしまう。放浪に生きる現代人を綴って何とも印象的な旅ルポである。