本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

満月と近鉄/前野ひろみち

本作に収録された四作品しか発表していない幻の作家らしい。森見登美彦との対談が収録されているので、ユーモアとか幻想方面の作家かしらんと思って読んでみた。


「佐伯さんと男子たち」鹿と戯れるのが好きな佐伯さんに好意を抱いてしまった三人のアホ中学生が次々に告白するというもので、語り手から見た二人の友人の描写がそこはかとなくおかしい。


ランボー怒りの改新」蘇我親子が起こしたベトナム戦争から生還したランボーが、大化の改新の騒乱に乱入して大暴れというハチャメチャな仮想歴史小説(?)。


「ナラビヤンナイト」千一夜物語をあらゆるバージョンにアレンジして語れるという女性研究者が、奈良の昔話風に語ってみせる。もうタイトルだけでもおかしい。


「満月と近鉄」畳屋の息子に生まれ、将来は跡継ぎになるものと目されていた馬鹿息子(作者自身)が作家になることに憧れ、一年だけアパート暮らしを許されて作家修業しているが、聊斎志異を読んでるような美女と知り合い、彼女に恋しながら作品のダメ出しをされるというユーモアファンタジー


著者にはこの若書きのこの四作品しかないが、作家の仁木英之に発見されて奈良同人誌に作品が掲載されたという行く立てがあるらしい。その正体は謎に満ちており、発行元の角川自ら下記のような内容をサイトに掲載している。https://kadobun.jp/feature/readings/6i6b1oyzxf48.html


まあとりあえず面白かった。