本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

鬼憑き十兵衛/大塚已愛

文庫化にて再掲、と言う名のリサイクル。


何とも血なまぐさい時代ホラーだが、妙にカタルシスのある快作。耽美的な文体が一昔前の時代小説を思わせる。


山人と里人の間に生まれた十兵衛は、親を知らないまま山人のなかで育つが、長じて里に出ると、熊本藩剣術指南役である剣の師匠から苛烈な修行をさせられる。しかし、師である松山主水が藩の謀略がらみで惨殺され、死の間際に父親であることが明かされると、仇討ちを誓うのだった。


父を殺した侍たちをまとめて葬り去った十兵衛だが、自身も手傷を負って死を覚悟したとき、妙なもの(十兵衛の血を浴びたことで蘇った鬼)に命を救われ、鬼と道連れとなって更に過酷な旅へ、というのが始まりである。美形の僧侶の形を取る鬼はひとの死体を喰らって力を蓄えるが、妙に飄々としており、十兵衛のいい相棒の感。


謀略の謎を解き明かし、更に「せいれん」やら島原一揆の一党やら化け物やらが入り乱れ、なんとも凄まじい展開なのだが、飄々とした鬼のせいか、どこかのんびりした感じも漂う。何となく裏閻魔を思わせたが、これシリーズ化されるかな。