本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

料理通異聞/松井今朝子

現代にも残る江戸時代以来の料亭「八百善」の初代、善四郎を主人公にした連作時代小説。


母親が身ごもったまま料理屋「福田屋」の妻女となったらしく、善四郎には実の父と育ての父がいるが、育ての父を本当の父と思い、料理屋の息子として育っていた。当時の江戸は災害が続き、不作であったり景気が悪かったりで時代時代の波があるが、知恵を絞り、時には賭けに出て善四郎は店を大きくしていく。


江戸情緒を背景に、料理の数々も美味そうだし、太田蜀山人、谷文晁、酒井抱一などとの交流もあり、ひととの出会いが善四郎を成長させていく様も細やかに描かれる。


数年おきの善四郎を描いた連作は一篇一篇が長く、中編小説くらいのボリュームがあり、連作としては読むのにやや手間がかかった感。もっとコンパクトでも良かったかなぁ。


「料理通異聞」というタイトルも何だか内容とそぐわないと思ったが、「料理通」は善四郎が筆を執った料理指南書でベストセラーになった由。


料理通異聞 (幻冬舎時代小説文庫)

料理通異聞 (幻冬舎時代小説文庫)