本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

椿宿の辺りに/梨木香歩

海幸山幸伝説をモチーフにしたファンタジー。変な小説である(笑)。


主人公の佐田山幸彦は祖父に変わった名前を付けられた。因みに二才下の従妹は海幸比子で通称は海子。なぜが祖父がこのような名前を付けるに至ったのか、家の謎を辿る旅の模様を描いているが、どうにも捉え所がなく話が拡がり、変な小説であるという感想を持つに至った。


山幸彦は三十肩や腰痛や抑鬱に苦しんでいる、やや狷介なひねくれ者である。母親や年下の従妹にも敬語で話すのは、来し方によって会得した人間関係の要諦らしいが、このあたりが何ともユーモラス。


母方の祖母の具合が思わしくなく、自分も痛みに苦しんでいた山幸彦は、療養を兼ねて祖母のもとを訪れると、そろそろ幽明境を異にし始めた祖母は父方の祖父の「実家にある稲荷を大事にしろ」という言葉を伝えたるし、痛みのために訪れた療養所はスピリチュアルな診断をしていて同じような託宣をし、結局、実家を探索する羽目になるのである。


山幸海子のいとこコンビは「f植物園の巣穴」主人公の子孫であり、f植物園で提示された謎が本作にもつながっているという重層的な構造。その辺が物語を面白くも難解にもしている気がするが、偏屈な主人公の語りは楽しく、著者お得意の日本的風土のファンタジーとして面白かった。


椿宿の辺りに

椿宿の辺りに