本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ツバキ文具店/小川糸

主人公の鳩子は鎌倉の奥まった地域で小さな文具店を営んでいる30才の女性である。副業として代書屋もしているが、これは単に清書するだけではなく、依頼に応じて内容も考えるという複雑なもの。


依頼は様々で、ペットの猿のお悔やみ、借金の断り、友人との絶縁状などを、字体もそれぞれに変えながら苦心の手紙を書き上げる。書き上げた手紙は挿絵として提示されていて、鳩子の工夫をビジュアル的にも描くという凝った体裁。


鳩子は祖母に育てられたが、書のしつけを厳しく強制され、やがて反発、高校時代は分かりやすく非行にはしるという楽しい挿話もある。結局祖母とは絶縁し、死にも立ち会わないままであったが、やっぱり代書屋と文具店を継いでいるあたりに鳩子の複雑な思いがあるし、最終的には祖母の愛情があったことがわかって後悔の念を持つ。全体的にやさしい雰囲気があり、読んでいて心地が良い。


隣家に住む、かっこいい毅然とした老女バーバラ婦人、横柄で偏屈でぶっきらぼうだが根は優しい男爵、豊満な肉体を持つ小学校教員パンティーなど、登場人物たちも個性的で楽しいし、鳩子と文通する幼児QPちゃんがかわいい。鎌倉の実在の店なども出てきて食べ物の描写が美味そう。


余談だが、出版元は幻冬舎で、ネトウヨ本を出すような出版社がこんな素敵な小説も出すのだなぁと複雑である。

ツバキ文具店 (幻冬舎文庫)

ツバキ文具店 (幻冬舎文庫)

  • 作者:小川 糸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: ペーパーバック