本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

この川の向こうに君がいる/濱野京子

震災をモチーフにしたヤングアダルト小説。


東日本大震災で兄を失い、家を流された梨乃は埼玉に移住している。中学で過剰な同情を買い、頑なになった梨乃は都内の私立校に進学、中学の時は震災で諦めた吹奏楽部へ入部するが、己の出自は明らかにしない。


同じ一年の新入部員には福島からの避難を明るく公言する紺野涼がいて、梨乃には煙たい存在になっているが、友人や部活を通して徐々に変化していくというのが本書の肝である。


主な筋立ては冒頭を読んだあたりで予想が付いたが、涼を始めに人物の書き分けが丁寧で魅力になっている。優等生美少女でお節介すぎるようにも見える美湖とか(この手のタイプに梨乃は辟易しているのだ)、流麗なサックスを吹き、梨乃にサックスの魅力を教えていく詩緒先輩とか、周囲の人間も面白く描かれているのだ。


ラストシーンで梨乃が都県境の橋を渡るシーンがあるが、彼女の新たな一歩であることを言祝ぎたい。


余談だが、梨乃の故郷は仙台から電車で一時間かからない距離の街であるとされている。そして被害が大きかったとなれば、おそらく我が父祖の地である石巻であろう。石巻には旧北上川という大きな河川があるが、梨乃にとって川は恐怖の対象であることも描かれている。「この川の向こう」はいろいろな意味を含んでいそうだ。

この川のむこうに君がいる

この川のむこうに君がいる