体も小さいが、小さいものを集めるのが好きな「小さな男」と、ラジオアナウンサーをしているが自分の低い声が気に入ってない女性「静かな声」の自分語りが延々続く不思議な小説。
小さな男はデパートの寝具売り場勤めだが、複雑怪奇な従業員専用通路を歩く苦行が延々語られたり、些末なことにこだわり、それを記録していく自分的な百科事典があったり、きっぱりと行動的な妹がいるが自分は弟になりたかったと述懐したり、どうでもいいようなことがユーモラスに語られていく。
静かな声の静香さんは、馴染みの居酒屋ではイラストレーターのフリをし、酒談に興じたりしており、小さな男同様、やや不思議な弟がいるが、姉でいることが不満で、自分の中の姉と会話したりしている。
自意識過剰気味の二人にはほとんど接点がないが、共通の知人がいて(このヒトの描写が楽しい)、淡い接点が生じるあたりが面白い。自意識過剰気味な自分語りなどをリアルで聞かされたら鬱陶しいことこの上なかろうが、手練れの手にかかると楽しい読み物となり、幸福な結末に向かって収斂していく。
- 作者: 吉田篤弘
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/11/22
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログを見る