本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

熱帯/森見登美彦

奇書を巡る思索と冒険の旅、という感じだろうか。


冒頭、著者と思しき人物が「熱帯」という書について語る。熱帯の島に流れ着いた青年を主人公としたもので、魔術やら謎の人物やら活劇やらが物語られている本だが、著者と思しき人物はこの本を紛失し、未読のままだ。


著者と思しき人物は、参加した「沈黙読書会(謎の本について語る読書会)」で、この本を知る女性と出会うが、この女性もまた「熱帯」を完読しないまま紛失しており、「熱帯」の謎が更に深まっていく。


不条理と諧謔(著者の場合、ユーモアというより諧謔の方が似合う)が森見作品の特徴であり、魅力であるが、本書の場合、諧謔の方はそこそこで、不条理を全面に押し出している。奇書を巡る冒険は更に深化を辿り、登場人物は迷宮のような世界を引きずり回された末、よく分からない結末へ・・・。いつものような諧謔を期待すると肩すかしを食うが、不条理ファンタジーとしては傑作であろう、多分(笑)。



熱帯

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