ちょっと前に話題になっていたので知っていたが、介護と言うと身につまされそうでなかなか手を伸ばす気にはなれず、母の死を契機に読んでみた本。
著者は民俗学研究者だったが、何かで研究生活を諦め、介護職に転職した由。そこで出会うお年寄りの話が民俗学的内容の宝庫であることに気付き、介護民俗学を提唱する。
民俗学のフィールドワークではお年寄りの話を聞きにムラを訪ねるのだが、昨今のお年寄りは介護施設にいることが多いそうで、なるほどと思う。
お年寄りの話からは、歴史、地域性、生活史などが浮き彫りになり、それは貴重な内容であると共に、介護する・されるという優位劣位の関係が、教える・教えを請うという関係に逆転されるなど、学者ならではの視点もありそうだ。
介護現場で使われる「回想法」と「聞き書き」に、当初は共通点を見出していた著者だが、聞書の内容を重視する著者に対し、回想法や傾聴は利用者の心身状態を向上させることに主眼が置かれているため、やがて批判的な視点を持つようになった由。
著者がレクリエーションとして発案したジェスチャー・ゲームにも、利用者それぞれの生活史が垣間見えて民俗学的だとしているのだが、こういう幼稚園みたいなレクリエーションがあるから既存のデイサービスって何だかなぁと考えてしまう。
著者の勤務する介護施設は母の郷里のあたりのようで、馴染みの地名が出てくるのには親しみを覚えたが、祖父母が経営者と親しくしていた企業名や、更に祖父母の家の真向かいの施設まで出てきてびっくり。最終的にはこういう個人的な興味が一番の読みどころになった。
- 作者: 六車由実
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2012/02/27
- メディア: 単行本
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