何とも面倒な小説である(でも面白い)。
冒頭、4才の娘に「ヒデヨシ」と呼ばれる、幸地秀吉なるバーの経営者一家のことが語られ始めるのでこの男が主人公かと思うがさにあらず、未明のドーナツショップで相席した小説家くずれの男と言葉を交わす場面が語られ、これが後の伏線になっていく。
小説家くずれ津田伸一は、直木賞を取ったこともあるような作家だったが、女好きで軽薄で不誠実でだらしなく、現在は落ちぶれて、女子大学生の部屋に転がり込んでデリヘルの送迎ドライバーをしているという、なかなかにキャラの立った主人公だ。著者本人も「放蕩記」なんて作品を出しているし、ある種著者の投影なのかもと思ったりするが、それではあまりに無軌道(笑)。
始まりからほどなく幸地一家は失踪してしまうのだが、その経緯を津田が小説の中の小説として想像を膨らませながら著述し、また自分自身の転変を地の文で語っていくという懲りまくった構成である。
津田と減らず口をたたき合う仲の古書店主人の房州老人(津田の著作を商品にしており、ある程度はまだ期待しているのかもしれないが、とにかく津田に対してガミガミと小言ばかり言っている)が死ぬと、津田に形見としてキャリーバッグが残されるが、その中身がとんでもないもので、それを巡って本通り裏(ヤバい人たち)が動きだし・・・、というサスペンスな展開になる。
サスペンスとは言っても主人公が軽薄な津田だから基本的にはユーモラスだが、ゲスな男女の濃厚な情交シーンがあったり、暴力的な場面があったり、そこはやはり手練れの作家なのかもしれない。冒頭の、津田と幸地の本を巡るやり取りから語られる部分は著者自身の小説論なのかも、と思ったりするがどうなのだろう。
時制と事件とトラブルがあっちへ転がりこっちへ転がり、何とも落ち着きのない構成ではあるが、一気呵成に読ませる面白さでもあった。
- 作者: 佐藤正午
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2018/01/04
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