本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

エンジェルメーカー/ニック・ハーカウェイ

主人公のジョー・スポークは実直な時計仕掛け機械の職人で、工房で独りこつこつと仕事をしているが、父親は犯罪界の大物であり、ジョーも地下世界とゆるく繋がっていたりする。

そんな繋がりから持ち込まれた、精密機械を修理する仕事を仕上げて納品したところ、その「理解機関」は平和をもたらすことも、世界を破滅させることも出来るというとんでもないものだった、というなかなかに魅力的な設定である。

ジョーの物語と並行して90才の元スパイ女性イーディー・バニスターの来し方も語られる。17歳の時にスカウトされてスパイの訓練を受けるイーディーだが、組織の秘密基地は時速180kmで疾走するSL列車という、こちらもジブリアニメのごとくわくわくするガジェットを登場させている。

イーディーの過去は理解機関の開発と大きく関わっており、ジョーの現在(どちらかというと一方的に虐げられる冒頭(笑))と、イーディーの過去が少しずつ関わりながら収斂させていく感じは村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を思わせた。不条理でユーモラスな展開も似ているかもしれない。

ジョーの活躍は波瀾万丈で、悪夢的な世界に放りこまれたりもする。邪悪な殺人鬼も登場し、混沌としながら手に汗握る物語が展開されるのであった。

ハヤカワポケットミステリから刊行されているが、ミステリーというより、ファンタジー的冒険小説という感じだろうか。ビジュアルでスピーディーで痛快なジェットコースター・ノベルである。

本文だけで720ページ弱という本作は、ポケミスの判型からすると弁当箱みたいに分厚い。読了できるだろうかとやや腰が引けたのだが、この手の分厚いものを読む場合、まず1/4まで読むことを目標にする。次は半分までを目標とするが、半分まで読めたら面白い本に決まっているので、後は一気呵成で怒濤の展開を楽しんだ。

しかしこの本の魅力を要約するのは難しいなぁ。