本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ヒストリア/池上永一

沖縄の風土や伝承をモチーフに数々のファンタジーを発表してきた池上永一作品。今回も超弩級に仕上がっている。

主人公の知花煉は沖縄戦で凄惨な状況の中を逃げ回り、何とか生き延びることが出来たが、その最中にマブイ(魂)を落としてしまう。沖縄の伝承ではこれはよくあることらしく、落ちたマブイが一人歩きしたりすることはあっても、落とした方の人間にはさほど問題は生じないらしい。

戦後の沖縄でたくましく生き始めた煉だが、共産主義者の疑いがかかり、移民計画に紛れてボリビアへ渡ると、農地開拓で挫折したり密輸業者になったりナチスの残党と渡り合ったり成功したり凋落したりを繰り返し、波瀾万丈に生きていくのだ。

適当にユーモアをまぶしながらの物語の重厚さに圧倒される。日本政府や米軍の、沖縄への態度が糾弾され、かなり批判的な作品にもなっている。沖縄を故郷に持つ作家の本音なのだろう。安易にハッピーエンドに持っていかない結末はヤマトに対する怒りの表明なのかも、と思った。