本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ジンリキシャングリラ/山本幸久

高校の部活、人力車部を舞台にした青春小説。どの作品も面白いので山本幸久にハズレなしと考えているが今作も面白かった。

野球部の先輩の横暴に腹を立てて殴りかかり、退部になった一年生の浅野雄大は二年生の女子に人力車部にスカウトされる(可愛い先輩に一目惚れの感)。東京で失業した父親は家族と郷里(猫跨市とはまた何とも不思議な地名)に戻ってきて、その後雄大が幼い時に母が死去、父子二人の生活には特に問題はないが、やはり雄大にはどことなく孤独感が漂っている。

成り行きで人力車部に入ったものの、人付き合いが苦手でつい無愛想な態度を執る雄大は一年生仲間とは親密にならないが、高飛車にものを言う女子マネージャーとか、サボることにかけては天性を発揮するお調子者とか、おどおどした気弱者とか、この連中もなかなか一癖ありげである。

親睦のためにどこかへ旅行してこいと二年生に諭された四人は、雄大が祖父母に会いに行く羽目になったのと合わせて東京へゼロ泊三日のバス旅行を敢行するが、それぞれが行きたいところを巡るうちに親密になっていく。この多幸感が本書の白眉かと思える。

軽薄で素っ頓狂でロッカーに閉じこもる癖のある倉掛部長など、脇役の面々も楽しい。

じり貧の故郷への複雑な思いとか、疎遠だった祖父母との交流などしんみりさせる部分もあり、相変わらずこの作家の読後感は良い。それにしても人力車をモチーフにするとはなんともユニークだな。