本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ボートの三人男 もちろん犬も/ジェローム・K・ジェローム

イギリスの有名なユーモア小説で、子供の頃は児童文学全集で読んで笑い転げ、長じてからは丸谷才一訳の中公文庫版を楽しんできたが、光文社古典新訳文庫で出ていたので読んでみた。

物語は、やや生活に疲れた三人の若者が気分転換にテムズ川をボートで旅するというもので、旅の中で起こるあれこれをスラップスティックに描いたユーモア旅行小説である。産業革命期でもあろうし、現代人のストレスというものが普遍化し始めた時代なのだろう。

語り手のJ(作者の分身と思われる)、銀行勤めながら他の二人からは勤務中に寝てばかりいると思われているジョージ、やや空気を読まない感のあるハリス(なんとなくホリケンを思い起こさせる)、天使のような風貌をしながら喧嘩上等なフォックステリア犬のモンモランシーと、個性豊かな面々が美しい風景の中で様々なドタバタを披露して楽しませてくれる。

元々は旅のガイドとして構想されていたとかで、土地土地の歴史を詩情豊かに描写したりもしている。この時代のイギリス人にとってボート遊びはポピュラーだったらしい。子供たちが船遊びをしながら冒険するアーサー・ランサムのシリーズは、ヨットだし時代はやや下るが、船遊び好きの伝統を引き継いでいるのかもと思った。

丸谷訳をしばらく再読していないのでどんな翻訳だったか思い出せず、新訳と言ってもさほどの目新しさは感じない。まぁ、ビクトリア朝時代の中流階級の若者がいかにも現代の若者言葉で話していたらあまりに格調に欠けるであろうし。今までの副題は必ず「犬は勘定に入れません」であったが、原本のto say nothing of the dogを忠実に訳すと「もちろん犬も」になるとのこと。

古典の名作をカジュアルに楽しむことが出来るのは何にせよありがたい。