本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

オオカミの護符/小倉美恵子

著者の育った川崎市宮前区土橋は、著者の幼少期は昔ながらの農村の暮らしが残っていたが、高度成長期の開発ラッシュによって山野や田畑が切り開かれ、五〇戸だった農村が七千戸の新興住宅地へと変貌を遂げていく。失われていく農村の暮らしを記録しようと始めた家庭用ビデオでの取材がきっかけで本格的な記録映画を撮ることになり、それが評価されて本書の出版へとつながったらしい。

土橋ではオイヌさまの護符が貼られており、これは武蔵御嶽神社講中に配られるものだが、信仰と娯楽と互助金融システムを兼ねたような講や御嶽神社を取材するうち、武蔵国一帯に広がるオオカミ信仰に辿り着き、山の暮らしへと繋がっていく。

着想は面白いし、オオカミの頭骨が狐憑きの薬になったとか、山伏によってもたらされた信仰とか、流浪民ずきとしては山の暮らしに心惹かれるが、歴史的な推測がもっとダイナミックに展開されるかと思っていたのでその辺はやや期待外れ。自然に寄り添う謙虚な農民の姿が著者の書きたかったことなのだから、これはまあ勝手な期待ではあろう。


暑中お見舞い申し上げます

どちら様も猛暑に負けずご自愛ください。