本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

双子は驢馬に跨がって/金子薫

森の中のペンションに、記憶のあやふなや親子が幽閉されている。父親の「君子危うきに近寄らず」も息子の「君子」も、自分たちがどういう過去を持ち、なぜ幽閉される羽目になったのか知らぬままだが、息子の同級生の双子が驢馬に乗って救出にやって来るという幻想をよすがに虐待スレスレのような生活に耐えている。

一方、本当に存在していた双子(みつるとことみ)は、ある日旅立たなければならないという思いに突き動かされ、学校で飼育されている驢馬ナカタニを連れて出立する。ところどころで寄り道しつつ、幽閉されている親子の話を耳にした双子は、彼らの救出を使命として、更に過酷な旅を続けるのだった。途中でお供も増えたりして、何だか西遊記の取経の旅かドンキホーテかという感じ。

シュールな状況の物語がややユーモラスに語られる感じは村上春樹作品を思わせ、この作家もハルキチルドレンかなと思ったりする。幽閉された親子と双子の物語が交互に語られ、やがて交わりそうになりつつ遠ざかったり、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を想起させるのだ。

シュールな謎に解決がもたらされぬまま物語は新たな展開に向かうが、謎が謎のままというのが純文学なのかもしれぬ。エンタメなら合理的な解決がないと読者が満足しないかもしれない(笑)。