本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

コンテクスト・オブ・ザ・デッド/羽田圭介

文庫化にて再掲、という名の使い回し・・・(笑)。




何とも奇想に満ちたゾンビ小説である。
 
10年前に文学賞を受賞してそのまま専業になり、最初は話題になったもののその後は鳴かず飛ばずの作家K(著者の分身ならんか)と、面会するのに自宅近くまで行かなくてもいい作家だとKをランク分けする大手出版社の若手編集者須賀が渋谷で会っている時に一体のゾンビが出現、恐怖をごまかすためになんでもないことのように振る舞おうとする二人だったが、この日を境にあれよあれよとゾンビが増えていき、Kもゾンビをネタにした評論で復活し、文壇の寵児となったりする。

更に大御所作家の接待に手を焼く編集者のぼやきなども出てきて、文壇で蘇ったり消えかかったりする作家たちをゾンビに擬えているのかと思ったら、それだけではない、大がかりかつスラップスティックなパニック小説に発展していく。

Kと同じ文学賞を受賞し、その後、大した作品はないものの上手く時流に乗ってきた女性作家、エンタメ文学賞の二次選考くらいまで通過してその気になり会社を辞めた作家志望の南雲など、文学業界のゾンビ候補に加え、生活保護担当の区役所職員とか、回りに流されるのが嫌いでクラスで浮いた存在の女子高生なども登場してきて、一体どういう風に展開するのか、予断を許さぬ。

本作では「同じ文脈」「空気を読む」「風潮に流されやすい」「ベタな流行作品」「同調圧力」「話題に乗りたい」など、昨今の風潮に対する糾弾も大きなテーマとなっている。

「古本屋兼執事が謎を解く感涙小説」と言った皮肉を効かせ、作家は過去の作品を自分の中でコピーしているだけではないのか、と言った疑問が呈されているが、著者自身はそれを越えている自信があるんだろうかとちょっと思うのは、筒井康隆かんべむさし椎名誠の不条理SFと似た展開を感じるからである。しかし、文脈とゾンビという奇想天外な組み合わせには感嘆するしかない大作であった。