本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

東慶寺花だより/井上ひさし

駆け込み寺、東慶寺の門前の公事宿に居候する滑稽本作家見習い・信次郎が遭遇する様々な駆け込みを、鎌倉の四季折々に絡めながら描いた連作時代小説。

駆け込みには様々な事情があり、単にDV亭主から逃げ出したいとかばかりではなく、複雑な男女関係のもつれがある時はユーモラスに、ある時はスリリングに語られて、なかなかミステリアスに仕上がっている。信次郎は町医者のもとで修行を積んだ医者の卵でもあり、その方面からの解決もあったりして、お人好しで頼りない居候ながら一生懸命で好感が持てる。

井上ひさし晩年の作品であり、また時代小説ということでかつの筆力はあまり期待していなかったのだが、十分に面白い作品だった。巻末の著者講演で語られる江戸の縁切りや東慶寺に関する話題も興味深い。横浜銀行の一部が東慶寺の金融部門だったとは知らなかった。

そういえば著者もDVの果てに前妻に逃げられた人だったのは何だか皮肉だなぁ。