本・花・鳥(ほん・か・どり)

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伏 贋作・里見八犬伝/桜庭一樹

南総里見八犬伝をモチーフに、房総の山から出てきた猟師である少女浜路が、伏(ふせ)と呼ばれる犬人間とドタバタ追いかけっこを繰り広げる時代ファンタジーである。
 
伏は残虐な行為を平気で行い、江戸を恐怖に陥れている。猟師である祖父に育てられた浜路(純朴で活発な少女)は、祖父の死後、異母兄に江戸に呼ばれ、伏を狩る賞金稼ぎとして活躍し始める。そこに滝沢馬琴の不肖の息子である滝沢冥土が絡み、伏の歴史を解き明かしていくという入れ子構造の物語になっている。

南総里見八犬伝では八犬士が活躍するが、本作では伏姫と八房の間に生まれた子供が伏という犬人間で、犬の性情を持ちながら人に紛れて暮らしいる。その母たる伏姫の物語がなかなかに哀切で痛々しくて、いかにも桜庭作品らしい感じ。イタさが気持ち悪くなく、ほどよい感じなのだ。闊達で美貌の伏姫に対し、陰気でいびつな鈍色(にびいろ)という弟が配されるが、この姉弟の愛憎が切ない。朴な浜路と、妖美な伏である信乃とのツンデレな駆け引きもなかなかに楽しい。