本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

プリズン・ブック・クラブ コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年/アン・ウォームズリ

著者が受刑者のための読書会に携わった活動を記したノンフィクション。受刑者のプライバシーについては一部創作を加えているらしい。

読書が受刑者の精神的成長に役立つと信じ、熱心に活動を展開する友人キャロル・フィンレーから活動への参加を誘われた著者だが、8年前に強盗に襲われ、首を絞められて失神したトラウマから逡巡している。しかし、「人の善を信じれば、相手は必ず応えてくれるものだよ」という父親の教えを思い出し、また物書きとしての好奇心もあって活動への参加を決意するのだった。

書物のテーマは多岐に亘っており、虐待や犯罪ノンフィクションなど、かなりシリアスだ。おそらく受刑者に自己を顧みさせるためでもあるのだろう。そして個性豊かな受刑者たちから思いもかけない読解が引き出されたりして、うーむ、受刑者は本読みとしても一筋縄では行かないなぁと思わせられる。

著者が特に関心を持ち、出所後にも交流を持つグレアムという受刑者は、ヘルズ・エンジェルズのメンバーで薬物犯罪で収容されているが(この背景は創作かもしれない)、深い知性を感じさせ、読書会をリードしていく。「善は悪より感染しやすい」という発言などは何とも恐れ入る。

ただ、読書会に参加するのは多くの受刑者の一部であろうし、すべての受刑者に読書の恩恵が行き渡る訳ではあるまい。そのあたりにこの手の活動の限界があるような気がする。選書で印象に残ったのは「夜中に犬に怒った奇妙な事件」「ガーンジー島の読書会」「サラエボチェリスト」など。自分でも読んでみたくなった。