本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

かたづの!/中島京子 

文庫化にて再掲、という名の使い回しPart2。



かつては一本角(片角)のカモシカであり、今は八戸南部班の秘宝「かたづの様」として存在する精霊のような意識が、八戸南部藩を支え続けた女傑について語る時代ファンタジーとでも言うべきか。結構は歴史小説なのだが、何しろ片角が語るし、木屑から生じた河童が女傑に懸想するわ妊婦を助けるわ・・・(笑)。

八戸南部藩藩は三戸南部藩支藩であり、つねに宗家の当主たる叔父(権謀術数を好む、残虐な野心家)からの容喙や、併呑しようとする野望の矢面に立たされているが、藩主の娘祢々は血縁の家臣筋から婿を取り、仲むつまじく暮らしていた。

夫が藩主としての才覚を発揮し始め、跡取りも生まれて喜んでいた矢先、宗家の叔父の用で他国にいた夫が客死、嫡男も不審死を遂げる。叔父の陰謀かと思われ、家を乗っ取られると考えた祢々は、まだ幼い娘に婿を取ることを決め、婿が藩を継げるようになるまで自分が女亭主として藩政を預らせてほしいと宗家に懇願し、なんとかこれを飲ませることに成功する。支藩ではあるが正式に女大名がいたのだなぁと、ここまでがまぁプロローグである。因みに片角はかつて祢々夫妻に可愛がられ、なついたカモシカが死して後、祢々が角を切り取ってお守りとしたもの。

叔父の容喙はそれからも続き、女亭主は様々な苦難を知恵と勇気で乗り越えていく。苦難に満ちた女の一代記であり、叔父の横やりをしのぐことに命をかけた人生だが、かたづの独白による物語なので適当にユーモラスであり、女傑の活躍が痛快でもある。物語の最後に安らぎの時を持てるのが救い。

余談だが、著者の「小さいおうち」も傍観者から見た女主人という構造で、本作も同じだなぁと思ったことである。