本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

でんでら国(上・下)/平谷美樹

文庫化により再掲(という名の使い回し(笑))。



高齢化と介護の問題をモチーフにした時代小説である。出版広告を見た時、ユートピアを守る者と攻める者という筋立てに「吉里吉里人/井上ひさし」と重なるものを感じて興味を持ったが、やはりヒントになっているだろうという印象。

津軽と南部に挟まれた小藩、外舘藩は資金繰りに困って隠田摘発に乗り出す。飢饉の年にもきちんと年貢を納めた大平村に目を付けたのだ。大平村では棄老が習慣化しているという噂があり、近隣から嫌われている。確かに大平村の年寄りは60歳になると家を出て山に入っていくが、そこには老人のためにユートピアが用意されていて、幸せな老後を送っているのだった。

でんでら国の存在を察知した船越平太郎は、代官所の別段廻役という下級役人で、普段は犯罪者の摘発をしている。それなりに有能な侍であり、でんでら国の参謀、善兵衛と攻防を繰り広げるが、自身も認知症の父親を抱え、でんでら国の存在をつい羨ましく思ってしまったりする、複雑な立場だ。

たとえ豊かな財力があろうと、力の論理で攻めてくる武士に抗うのは並大抵ではない。それでも知恵と勇気で戦う老人たちが痛快。虚々実々の駆け引きは読み応え十分だ。読後感も悪くない。

この作家については全然知らなかったが、文庫ものの時代小説を多数出している作家のようだ。昨今の時代小説ブームには完全に乗り遅れており、雨後の竹の子のように出版される文庫時代小説には疎くなってしまった。


先週の植物

キョウガノコ


ホタルブクロ