本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

書店主フィクリーのものがたり/ガブリエル・ゼヴィン

リゾートと思しきアリス島で書店を営むフィクリーは偏屈な変人である。妻の故郷に夫婦で書店を開いたが、妊娠中だった妻が事故死。消沈し陰鬱に生きているが、ある日、いずれは売却して老後資金にしようと考えていた稀覯本が盗まれ、さらにはに二歳の女児マヤを店に捨て子され、妙に身辺がざわざわし始めるのだった。 

すっかりマヤにほだされてしまったフィクリーは養女として育てていくことに。その過程で様々な人間関係も構築され、なんだか「アルプスの少女ハイジ」のアルムおんじみたいと思わなくもない(笑)。複雑な出自を持って個性的に成長していくマヤの姿も楽しい。

文学好きのフィクリーが、様々な書物について娘に語る一節が各章の扉に付されており、この辺は本好きの心をくすぐるが、ほとんど未読の本ばかりなのが残念。

当初は衝突していた書店営業の女性と恋に落ちて結婚し、三人で幸せに暮らしたりもする。コミカルでシニカルでちょっと悲劇的な感じはジョン・アーヴィングを思わせなくもないが、あそこまで寓話的かつ過激ではなく、いいお話しだったなと本を閉じられる小説である。


雨中の桜