本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

はかぼんさん 空蝉風土記/さだまさし

そこそこに名前も顔も売れている物書きの遭遇する不思議を情緒的に描いた土俗ファンタジーとでも言うべき連作集。

主人公は「まっさん」と呼ばれる有名人だし、実在の人物をモデルとした登場人物もいるし、半ばドキュメンタリーか私小説かと思ってしまうが(前書き・後書きもあるが、これもフィクションの一部であろう)、まぁ出てくる話が話なので真実とは思えぬ。ただ、京都の風習を題材にした表題作の「はかぼんさん」に超常現象的な要素はなく、もしや本当にこんな行事があるのかも、と思わせてしまうのが著者の筆力かもしれない。

日本の土俗に根差したファンタジーであり、怪異と言うよりも「神秘」「奇譚」という感じ。土俗的で叙情的でもの悲しくて、遠野物語のテイストに近いかもしれない(遠野物語は未読だけれど)。

主人公自身の悲しい恋をからめた「人魚の恋」、「はかぼんさんがくるえ」という脅し文句の奇態な風習「はかぼんさん」、四国霊場で仙人のごとく飄然と現れる修行者の贖罪の想いを描く「同行三人」など、どの話もそれぞれに読ませる。