本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

楽隊のうさぎ/中沢けい

中学に上がったばかりの克久は小学校時代に仲間はずれにされていた経験があり、心を壁で塗り固めている少年だが、おどおどしつつも時折臆病な好奇心が顔を覗かせることがあり、それが「うさぎ」と表現されている。

中学でもいじめっ子の相田守(暴力ではなく、上下関係で服従させようとする奴)と同じクラスになってしまった克久は、相田の圧力から逃れるように、ひょんなことから吹奏楽部に入部するが、パーカッションに熱中することで成長していく。

いじめを克服し、成長していく少年小説かと思いきやそうでもなく、いじめっ子との確執はいつしか片隅に追いやられている。何と言うか、大人になることの煩わしさに音楽が寄り添っている感じ。やっぱり純文学系の作家ゆえか、地の文の叙述まで理屈っぽく、しち面倒な部分もあるのだが、それ故にこそ突き放した見方が出来るのかもしれない。何せ両親は百合子と久夫と固有名詞で書かれるし、先輩も宗田とか有木としか書かれないので人物関係が今ひとつすんなり入ってこないこともあり。

克久に起きるひとつひとつの事態も、ドラマチックに盛り上がるのかと思えばもう次の展開に移っていたりして油断ならない(笑)。

こういう小説の場合、音楽の喜びとか仲間との一体感が重要なモチーフとして描かれがちだと思うし、そういう描写もあるのだが、出だしのティンパニを叩く克久が大きな孤独を感じている場面で「五十人分の孤独を引き受けている」としているのがなぜか印象的だった。

何か一筋縄ではいかない感じの音楽少年小説だが、気持ちよく読了。