独学
16〜7年ほど断続的にNHKのラジオ講座で韓国語を独学している。きっかけは家にあった入門書。
日本の植民地だった旧朝鮮京城からの引揚者である亡父は、リタイア後に韓国語習得を目指してカルチャー教室などに通ったが、結局ものにはならなかった。家には父が買い込んだ入門書が何冊もあり、そのうちの一冊に「ハングルは三日で覚えられる」みたいなことが書いてあったので、興味を持ってその本を読み進めていったところ、大体それくらいで文字自体を覚えることは出来てしまった。ハングルは母音と子音の組み合わせだからわりと覚えやすいのである。
しかし、文字を覚えただけでは話にならぬので、テレビのハングル講座(テレビ講座は雰囲気に触れる程度であまり学習にはならないが、今でも見ていると面白い))、ラジオの初級講座で独学し、大体習得出来たと思ったところで、応用講座へ進んだ。応用篇は以前は週二回の放送だったが、現在はレベルアップハングル講座として週五回の放送である。
実践、そしてほとんど分からぬ
初歩は習得しているつもりなので(英検で言えば3級程度の力はあると思う)、初の韓国旅行でどの程度通じるか楽しみだったが、ほとんど実用にならないことが明らかに・・・(笑)。外国語の習得には語彙力とリスニングが欠かせないのだなぁ。
こちらの言いたいことは大概通じる。「어디에요 (どこですか)」とか「버스 는 어디서 타면 되요?(バスはどこで乗ったらいいですか?)」とか「일본에서 예약 하는데요(日本で予約したんですが)」とか「이궐 주세요(これください)」とか「지금 저는 어디에 있어요?(私は今どこにいますか?)」とか「이 엽서 있어요?(この葉書ありますか?)」とか「○○를 사고 싶은데요(○○を買いたいんですが)」くらいのことは調べなくても言えるが、では回答が聞き取れるかというとか早口でまくし立てられるので1割も理解できたらいい方だろうか。外国人が片言で話しかけているのになぜ分かりやすく話してくれないかしらん(笑)。
인녕하세요(アンニョンハセヨ)と삼 층(サムチュン)
アンニョンハセヨは一般的には「こんにちは」の意味で使われるというのが日本人の認識であろうが、ホテルとか店とかで別れ際によくアンニョンハセヨと言われた。하세요ハセヨは하다ハダの略待上称(親しげな丁寧体)の尊敬表現で、「〜していらっしゃいますか」「〜していらっしゃいます」「〜してください」などに使われる。인녕アンンニョンは安寧だから、出会いの挨拶を直訳すると「安全に過ごされていますか」という意味だそうだ。
で、これを別れ際に言うのは「安全でおられてください=お気を付けて」の意味合いかなとふと思い付いた。そういう意味ならおもてなしという感じがして気持が良いものだ。へなちょこ韓国語の使い手だが、やっぱり現地に行くと生きた知識が身に付くと実感した。三階は「삼 층(サムチュン=三層)」と言うのも今回仕入れた知識。
東戸塚ですよ?
羽田からのリムジンバスは我が家の最寄り駅には1日に数本しかなく(横浜市で2位の乗降客数なのに!)、帰りは数駅離れた地下鉄駅まで(なぜそんな辺鄙な駅には止まる!?)。
バスのアナウンスは日英韓中が流れるが、韓国語のアナウンスが「東戸塚ヨ?港南台ヨ?」と言っていて、何なのだろうと思った。
韓国語で「요(ヨ)」は略待上称(親しげな丁寧体)の語尾で、「アンニョンハセヨ」のように用言に続くだけではなく、名詞のすぐ後につなげて尻上がりに言うと「○○のことですか?」くらいのニュアンスだし、「그리고(そして)」に続けて「그리고요クリゴヨ」というと「そしてですね」くらいの感じになるらしいが、これを女性が柔らかく言うと非常にたおやかに聞こえて心地よい。
で、それなのかと思ったが「東戸塚ですよ?」では意味が分からん。そしてよく考えたら「駅(역ヨッ)」のパッチム(終声子音)が聞き取れていなかったと思い至った(笑)。パッチム(終声子音)は無声音の子音で、駅(역ヨッ)の場合はK音(ク)のパッチム。ヨの後に続けて口の中だけ「ク」を言う感じである。
男女の韓国語の違い
女性がたおやかに話す韓国語は風情があるが、韓国の男性は概ね、少し鼻にかかった声をのどの奥からアグレッシブに発音する感じがあり、やや威圧的に感じた。ハングル講座を見ていても韓流アイドルがそんな風にしゃべっている。
韓国語で質問した時に一番聞き取れた回答は、地下鉄明洞駅への道をアグレッシブトーキングな警官に聞いた時の「右に行けば4番出口がありますよ」だった。
司馬遼太郎は韓国語の習得は難しくないと言う
司馬遼太郎は、日本語と韓国語は文法が似通うので日本人には学びやすく、九州人が東北弁を覚えるのの2倍くらいの努力をすれば習得出来ると書いていた覚えがあるが、果たしてそうかなぁ。
確かに文法は似通うし、漢語由来の単語には類推できるものもあるし(ただし現在の韓国では漢字はほとんど使われない)、慣用的な言い回しにも共通する部分があるが、それにしては語彙と発音が違いすぎてなかなか覚えられぬ。スペイン語とポルトガル語ならもう少し似ている気がするがどうなんだろう(笑)。
子音と母音で構成されているハングルは、終声子音の次の文字が母音だと連音化するし、TやSやPやKの終声子音は次に来る子音によっては鼻音化することもある。この音韻変化の激しさも素人に聞き取りにくい一因であろうと思う。
初歩は分かっても
あまり実用にはならなかったが、それでも駅内や街中の表示は分かるし、路線バスにも乗れたし、ハングルが読めるだけでも便利ではあった。もう少し磨きをかけたいものだなぁ。
以上、長々続けてきたソウル駆け足訪問記でした。