本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

舟を編む/三浦しをん

大冊の辞書「大渡海」編纂に携わる人々を描き、辞書作りの苦労と、言葉に対する情熱をひしひしと伝えてくれる出版小説とでも言うべきか。

社内事情もあって大渡海はなかなか出版されず、15年の長きに亘って編集作業が続けられていて、辞書作りの中心となるのは馬締光也である。几帳面で融通の利かない変人だが言葉に対する感性は鋭く、地道な作業を厭わないので辞書編纂には打って付けと、営業からスカウトされてくる。営業部ではお荷物のような存在だったが、俄然能力を発揮することに。

馬締と入れ違いに広告部に異動になる西岡正志は軽薄なお調子者だが、根は誠実で、馬締のように辞書に対する情熱は持っていないことに忸怩たる思いを抱き、更に馬締に嫉妬する自分に嫌気が差しているという、なかなかに複雑な内面を持っている。変人ながら主人公として物語上の成功が約束されている馬締より西岡の方に肩入れしたくなった(笑)。

本作は松田龍平の主演で映画化されたが、読んでいて浮かんできたのはピースの二人だった。ドラマ化することでもあったらあの二人に演じてほしいものだが。