本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

かさねちゃんにきいてみな/有沢佳映

FMヨコハマのアナウンサーで、番組内でブックレビューコーナーをお持ちの北村浩子女史が何度か推しているのを目にして読んでみた児童文学である。
http://blog.fmyokohama.jp/books/2013/07/post-04a5.html
(↑音声で聞けます)

本書はほとんどが秋から冬にかけての登校シーンで成り立っている。語り手のユッキーは小五男子で副班長だが、来年は班長にならざるを得ず、問題児だらけの低学年をまとめる自信がなくて悩んでいる。

片や現在の班長かさねちゃんはインカ文明やアステカ文明に熱中するしっかり者で、リーダーシップがあり、優しくて明るい。だからと言ってただの優等生ではなく、問題児たちもかさねちゃんの「ちゃんとして」の一言には思わず従わざるを得ないという威厳もある。度量の大きさなカリスマ班長で、登校中に起こるトラブルも見事に解決してみせるのだ。

かさねちゃんにひきかえ、オレが班長になったら班崩壊だとユッキーが戦いている登校班のメンバーは、落ち着きなくギャーギャーわめく太郎次郎兄弟(まぁ中程度の問題児である)、反射的に暴れたり注意力散漫だったりするリュウセイ(リュウセイは家庭にも問題ありげ)、無謀なことを平気でやらかして大人をハラハラさせるミツ、汚いものに恐怖心を抱いているのんたんと、なかなかに個性的である。

そして困ったことがあると「かさねちゃんにきいてみな」が合い言葉だ。自分にはこんなカリスマ班長の後任が勤まる訳がないと思っているユッキーだが、他の登校班と比べてうちの班には差別する人間や人によって態度を変えるような嫌な奴はいない、だからユッキーは大丈夫と、かさねちゃんに諭されるシーンが本作の白眉。「ね、いい班だね。だから来年もアンタイだね」と言うかさねちゃんの神々しいこと。だから大丈夫だ、ユッキー!(笑)。悩める中間管理職ユッキーが面白切ない傑作である。

この独白がすごくおかしい(笑)。
「かさねちゃんがすごいのは、オレたちに、リュウセイにさえ、一度も、うんざりって顔をしないことだ。ちがうな、ほんとにすごいのは、どうもほんとに、かさねちゃんはぜんぜん、リュウセイにも、この班のメンバーにも、うんざりしてないってこと。
オレなんかしょっちゅう、いろんなことにうんざりして絶望すんのに。
かさねちゃんが絶望を知らないはずはない。だってオレより一歳長生きしてるんだから。」


ところで集団登校という形態は現在もあるのだろうか。最近の子供は縦割の付き合いがない、などと言われるし、何か昭和の時代を彷彿とさせるが、何かそれも懐かしい。縦割での遊びは、高学年はチビの面倒を見ることで成長し、チビたちは社会性を身に付ける第一歩だったような気がする。ただ、自分の子供時代、一番のガキ大将は切れやすくて凶暴で恐かったなぁ(笑)。