語り手の陽介は、難関の有名中学に通っていた、そこそこエリート家庭の息子である。しかし単身赴任中の父親が勤め先で金を横領し愛人に貢いでいたことが発覚、父親は逮捕され、家は売りに出され、母親が住み込みで働くことになったため、自分は母親と不仲の伯母のもとに預けられ・・・、というなかなかに不幸なオープニングである。
恵子おばさんは児童養護施設を運営しているが、元々は演劇にのめり込んでいた人で、パワフルでおせっかいで正義感が強くて情熱的である。色々問題のある子を引き取り面倒を見ているが、その中に陽介も加わったわけだ。
クラス内の小さな対立から父親の不祥事がばれ、俗物な保護者と対決するおばさんが何しろかっこいい。決して相手を責めるだけでなく、子供たちにとってよりよい方法を模索しているのだ。
陽介の視点は常にクールでシニカルで落ち着いており、とても不幸のまっただ中の中学生とは思えぬ。やや不自然な印象も受けるが、読み手を中高生ではなく一般読者と想定しているせいかもしれない。坪田譲治文学賞を受賞しているが発表は「すばる」だしなぁ。
その不自然さが気にならなければ、小さな恋や成長を描いて読ませる。深刻な状況にある子供たちを扱いながらも全体的に明るい基調で、読後感は大変に良かった。