本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

特捜部Q 檻の中の女/ユッシ・エーズラ・オールスン

コペンハーゲンが舞台の警察小説である。文芸評論家の池上冬樹(ミステリーと耽美的な文学作品が得意分野)が、いま最も面白い警察小説として挙げていたので読んでみたところ、確かに評価に違わぬ面白さだ。

主人公のカール・ハンスは辣腕の刑事だが、捜査中に二人の部下と共に銃撃され、一人は死亡、一人は脊髄損傷で寝たきりとなっており、すっかりやる気を失って組織の持て余し者となっている。折しも政治家のパフォーマンスで迷宮入り事件のみを捜査する部署が設けられ、体よく島流しになったカールは、5年前に行方不明となった新進女性議員について調べ始めるのだった。

まぁ、この手の小説にはありがちなことだろうが、カール・ハンスも相当にはみ出している。傲慢で扱いにくく、私生活では妻と別居しており、反抗的な義理の息子と暮らしている。魅力的な女性カウンセラーに色目を使ってみたり、人間くさいところに好感が持てるが(笑)。

そして、カールの助手に付けられたのがシリア人で、秘書として有能だが気が回り過ぎて自分の職分をはみ出す。陽気なプレイボーイで女性に取り入るのが上手いが、暗い過去を持っていることを匂わせる、なかなかに魅力的なキャラである。

カールの捜査対象は行方不明となったミレーデ・ルンゴー(有能で将来が嘱望される政治家)であるが、彼女の辿る経緯が恐ろしい・・・(これ以上は省略)。カールは捜査ファイルを検証し、かつての捜査員の見落としを丹念に拾い集めながらついに真相に辿り着く。

ラストシーンは実に感動的で、こんなことろも上手いなぁと思う。池上冬樹は涙を禁じ得なかったそうだ(笑)。人物造形、筋運び、そしてカタルシスの読後感と、一流の娯楽小説である。