本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

東京ローカルサイキック/山本幸久 

山本幸久作品と来れば好人物たちがドタバタと一生懸命に汗を流し、最後にほんのりハッピーエンドという読後感の良い小説だから、のっけから超能力者が登場する本作も、異能を持ってしまったがために苦労する者がユーモラスに描かれているんだろうと思いきや・・・。

基調としてはあながち間違いではない。主な登場人物は悲しい記憶にひたると瞬間移動してしまう日暮誠、好きな男子を思い浮かべると体が浮いてしまう吉原花奈の二人で、同じ中学の一、二年生の時に共に図書委員であった二人はお互いを意識して少しずつ距離を縮めていくのだが、純情な中学生二人の初恋模様がなんともこそばゆくほほえましい。

なんだ初恋SFなのかと思っていると、そのうち誠の母親が家出してしまい、やがて母親の著作(自己啓発本)がベストセラーになり、人生アドバイザーなる肩書きでメディアに引っ張りだこになり・・・、そして様相は一気にSFホラーへ、という感じ。

SF的な設定は明らかにハインラインの名作の影響かなと思わせるがどうだろう。離ればなれになっていた二人もこの騒動の中で再会し、やがて物語はめでたしめでたしで終わるからいつもの山本作品と言えば言えるが、ここまでSF要素の強いものを書くとはおもわなんだ。