本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

火花/又吉直樹

言わずと知れたピース又吉の芥川受賞作。どんなもんじゃいと思いながら読み始めたら、うーむ、確かに評価に値する芸人小説であった。

芽の出ていない若手漫才師の徳永は、花火の余興として呼ばれた会場で四歳年上の神谷と出会う。そして神谷の狂気ぶりに惚れ込み、弟子にして貰うのだ。

どちらも漫才という表現を真剣に考えており、表現を巡るやり取りは丁々発止の凄みさえ帯びる。このあたりが普通の芸人青春小説と違い、純文学たる由縁ではなかろうか。

生真面目な性格の徳永は超えられない枠を自覚しており、枠になど囚われない神谷を(畏れ、憎みつつ)崇拝しているのだが、ビートたけし立川談志松本人志など、カリスマと呼ばれる芸人たちとその熱烈な信奉者との関係を思わせた。

登場人物が漫才について深く考察できるのは、やはり現役の漫才師が書いているからだろう。芸人小説は多々あろうが、多くは小説家が書くものであり、漫才の内面に迫ることはなかなかできないのではないか(音楽小説やスポーツ小説もしかり)。エンディングは面白切なく、漫才師の業のようなものを思わせた。

本作の芥川受賞について、古舘伊知郎本屋大賞と同列に論じて炎上したそうだが、鑑賞力がないのか読まずに口先だけで言及したのか、どちらだろう(笑)。