本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

ジョーカー・ゲーム/柳広司

数年前に話題になった、戦前日本を舞台とする連作スパイミステリー。

「敵に囚われたら潔く戦って死ね」の武士道を信奉する帝国陸軍に、異端のスパイ養成組織D機関が誕生する。隠密に行動し、決して戦わぬ組織は旧弊な陸軍においては卑怯者の集まりに過ぎず、なんとかD機関を潰そうとするが、情報を種に上層部をゆすったりするところがいかにもスパイ小説らしく痛快。

主人公は作品ごとに異なるが、D機関のボスとして共通に登場する結城中佐のキャラクターが特異。拷問を生き抜いてきた筋金入りのスパイで、虚無的で冷酷で「魔王」の異名を取っているが、時折見せるねじれた諧謔性がたまらない。

どの作品も伏線とどんでん返しが効いていて読ませるし、強烈なエリート意識に固まったD機関の面々の精神性もそれぞれに書き分けられていて面白い。続刊も期待。