本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元新聞/河北新報社

文庫化にて再掲。しかしこのタイミングでというのはちょっとあざといなぁ(そう言いつつ掲載する自分もあざとい)。



東日本大震災が発生した日、東北を地盤とするローカル新の河北新報社がどのように行動したかを子細に記録したノンフィクション。河北新報の河北とは明治政府が「白河以北一山百文」と東北を嘲笑したことに因むそうで、反骨精神の現れだ。

震災発生後、情報こそ被災者に届けられるべき灯火であると信じ、会社も被災している中、全社一丸となって新聞を発行し続けた姿に胸打たれる。援助をさしのべる他のマスコミ(ヘリからSOSを求める避難所を写しながら「ごめんなさいね。ぼくたちには報道することしか出来ないんだ」と嘆く他社報道のうめきが悲痛だ)、物資補給を担当する無事だった支社、河北新報を何としても届けるという販売所、車両ドライバーの一報から報じることが出来た九日目の救出劇(自分に縁のある町名なのでこのニュースは他人事ではなかった)、悲惨なニュースをいかに報じるべきかと苦悩する記者や整理部の抱える葛藤(社命で一時福島から離れ、それが負い目となってしまった記者もいるし、読者から入手した津波の写真を、読者の受ける衝撃を考えて敢えて外すという選択もあった)など、読みどころは実に多い。連帯感や使命感にも読んでいて大いに力づけられる。

ただ、この使命感には独善的な自己満足もあるんじゃないかと考えたりするのがひねくれ者の自分である。河北新報創業以来、新聞休刊日を除いて途絶えたことのない紙齢を続けなければならないと言う使命感はヒロイズムの裏返しではないかと考えたりもするのだが、それが被災者に役立っていれば自分のような部外者がどうこう言うことでもないか・・・。