本・花・鳥(ほん・か・どり)

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アンリ・ルソーから始まる素朴派とアウトサイダーズの世界

世田谷美術館の「アンリ・ルソーから始まる素朴派とアウトサイダーズの世界」を鑑賞(貰い物のチケットで(笑))

http://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/exhibition.html

アンリ・ルソーについては画集や新聞などで絵を見たことがあるだけだが、幻想的で美しく、しかし何かザワザワさせるタッチに心惹かれるものがあり一度本物を見たいと思っていたのでいい機会だった。アウトサイダーアートとは美術教育を受けていない人の絵画ということで、素朴派なども含まれるらしい。だから何となく、プロ擦れしていない心和む芸術と思い込んで行ったら大きな間違い、多様なアウトサイダーアートに圧倒された。

アンリ・ルソーの絵は期待通りに好きなタッチだった(ルソーは税関吏であり、趣味で絵を描いていた画家。展覧会に出品して技術のなさを酷評されたこともあるらしいが、それでも偉大な画家の一人である)。そして、そこに連なるアウトサイダーアーには似たようなものもあれば全然作風の違う物もある。共通して言えるのは執拗なまでに細密に描き込んでいることで、その細密さと微妙に正確ではないデッサンが合わさると妙に不穏な印象をもたらす。絵の上手い子供の描いた物のように見えたりもするが、決して子供には描けないようにも思われ、何とも胸騒ぎ系の芸術である(笑)。

アウトサイダーアートは、狭義では知的障害、精神障害を持つ人たちがセラピーとして描いた成果というとらえ方もあるらしいが、山下清バスキア草間彌生などの作品は、圧倒的な迫力でこちらを捉えてしまい、なかなか放してくれない。草間彌生は水玉だけの作家ではないんだなぁと実感した。

シベリア抑留生活を描いた香月泰男に衝撃を受け、自分のシベリア抑留体験を描き始めたという久永強の諸作も胸を打つ。記憶からあれだけの状況を描けるとは。あまりの悲惨さに目を背けたくなる感じだった。

グランマ・モーゼス、イワン・ラブジン(原田泰治との三人展で以前にも見たことがある)など、牧歌的で見る目に優しいアウトサイダーアートもあり、インパクトの強い作品群の中にあって一服の清涼剤の感。

見る者をかなり不安にさせる作品群に圧倒され、何とも見応えのある企画展だった。新収蔵品展も面白い。アマチュアグループの共同展もあったりして、市民(狭義の○○市民ではなく、大衆の意で)に密着した美術館という印象。