本・花・鳥(ほん・か・どり)

本とか植物とか野鳥とか音楽とか

せどり男爵数奇譚/梶山季之

HAEART GRAFFITIのフウガさんに教えて頂いた、古書をめぐる連作奇想小説。著者自身と思しき物書きが語り手なのでエッセイかノンフィクションかと思ってしまうが、古書業界や書痴たちの奇抜さを描くエログロナンセンス的なサスペンスである。

せどりとは、古書店の一山幾らの棚から価値のある本を見つけ出し、高い利ざやを稼ぐ行為で、古書業界では一段低く見られているようだ。主人公の笠井菊哉は中学生の頃から古書の魅力に取り憑かれ、長じては自分で古書店を開いているが、せどりの目利きであり、なおかつ父親が爵位を持つ成り上がりだったことから「せどり男爵」と呼ばれている。彼は、語り手である物書きが若い頃に働いていた酒場の客で、偶然に再会した二人は意気投合、せどり男爵から古書にまつわる奇譚が語られるという構成である。古書に取り憑かれた人々の奇行は興味深く、また不気味であるが、そこが大変に面白い。最終篇はちょっとグロテスクだが、そういうのが受けた時代だったのかもしれない。

究極のところ、書物は文字記号から成るのだから、内容だけならワープロ打ちのプリントでもコンピュータや携帯端末のディスプレイでも読み取れるが(電子書籍がいよいよ本格化する時代だ)、造本、印刷、書物の持つ時代背景などに人並み外れた興味を抱くのが古書マニアや書痴と呼ばれる人々なのだろう。

自分などは本は出来れば新しい方がいい、誰が触ったか分からない古本は薄気味悪いなどと考える質だが、主人公にとっては元の持ち主に思いを馳せるのが楽しいらしい。ジョン・ダニングや出久根達郎など、古書業界をモチーフにした作品を書く作家がいるが、「本に関する本」という分野はわりあい本好きを魅了するのは、この「本自体の持つ背景」にも魅力があるからだろう。

昨今、せどりというと、新古本店(某オフ的な本のリサイクルショップ)の100円均一の棚から価値のありげな本を見つてネットオークションにかける、一種のネット副業のようなイメージがあるが、本来はもっとドロドロしたものなんだよなぁ・・・。